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皿(ハッピーファミリー)

 

mother,father,sister and brother.

母よ、父よ、妹よ弟よと呼ぶ声はどこか無気力で、これから囲む皿(食卓)が安寧をもたらすかは不明瞭だ。

 

<我が子は大切だよ 他人の子よりも>

<みんな賛成だよ>

<友達だものね>

同調圧力

<mother,father,sister and brother.>とバッググラウンドで鳴るコーラスは、ドラムと合わせて一定のテンポを保つから心地よく聴こえる。

"音"は心地よく、"言葉"は濡れた真綿のよう。

じわじわ、じわじわ、と同調圧力をかけてくる。

淡いノイズの向こうから聴こえてくる、ギターの音色は美しいのに。

 

<あのとき略奪してしまってごめんね>

<欲望が欲してるのは>

<欲望そのもの>

さらっと自然に歌うものだから聞き逃しそうになるけれど、ん?今"略奪"って言ったよね?

やはりこれは ジャンル:不穏 の方の曲。

<欲望が欲してるのは欲望そのもの>と、一見矛盾のようでもあるが禅問答にも思える一言が好き。

欲望は欲望を求めている、というのはなんとなく身に覚えがあって分かりやすい。

 

歌声はクリアだが、演奏はくぐもっているというか、薄い羅紗紙で1枚隔てられているような、そんな感じ。

環境音とも違うんだろうが、街の雑踏に聴こえる雑雑とした音の手触りは何だろう。

(Wether Report換算の再生時間で)14:30~、遠くで車が走っている、都会の夜のようなざわめきが被さっている。

 

<コーラの油田奪い合う冒険小説 深読みしながら>

このような冒険小説は、調べてみましたがありませんでした。

無いからこそ、こちらに解釈を委ねているところがいい。

(深読み、って言ってるしね。)

ストレートに考えたら"資源"の揶揄かしら。

こちら、割と長い事「コーラの夢 奪い合う」だと思ってました。

まあなんて可愛らしい歌詞 子供の夢かしらウフフ と思っていました。

(自分の耳が)残念です。

気怠く歌い上げるところがサイコー。

 

<我が子は優秀だよ 他人の子よりも>

<みんな賛成だよ>

<友達だものね>

同調圧力再び。

薄ら恐怖すら覚える圧力だが、"親"の感覚はこれが普通なのかもしれない。

"我が子"って言ったって、他の子だって他の誰かにとっての"我が子"なんだから、平等では?

なんて、親になった事もない人間が発言するのはお門違いだ。

(親は)みんな、自分の子を見るのに精一杯だ。

(親は)みんな、自分の子を生き延びさせるのに精一杯だ。

 

間奏にコーラスが無い代わり、環境音?が強くなる。

わざとなのか、全く関係無い音なのか分からないが、子供の声で「コレナァニ?」と言っているように聴こえる箇所がある。

そのせいか、子供の多い所、例えば公園のざわめきのような印象を持つ間奏のノイズだが、<あのとき略奪してしまってごめんね>に被さるようにして、小さな轟音が流れる。

ノイズをぐしゃーっとしただけかもしれない。

しかしなんだか悲しい。

子供の声はそこから途切れて、まるで突然居なくなったかのよう。

例えば、例えば、例えば。轟音の主が公園ごと吹き飛ばしたとか。

"略奪"に繋がるイメージをしてしまって、なんだかゾッとした。

 

<400年前のあの混乱をうまく再現するのさ 思い出せるかな>

この歌詞も解釈が難しい。

2013年リリースのWether Reportから-400年しても、1613年。

世界はまだ中世で、世界を巻き込む混乱や争いが起こるレベルに達してはいない。

でも、世界規模じゃなくったって、いつの時代も人間は略奪や侵略をして来た。

"開拓"という言葉に言い換えられたとしても。

規模の大小に限らず、世界のどこかで誰かが何かを奪われて来たんだ。

ひとつだろうといっぱいだろうと、全て略奪という言葉の重さ。

(全然関係無いけど1600年の世界・日本史を調べていたら島津豊久の没年らしく、島津豊久の名前見てムダにテンション上がりました。全然関係無いですね。新刊待ってます。)

 

<遊びさ ただの遊びさ>

意味深な言葉を散りばめて振りまいて、最終的に「遊びだよ」と皮肉気に風呂敷を畳んで行く。

許される行為ではない、のに「遊び」と言い張れば通ってしまう理不尽さ。

いや、それは我々が生きている世界の構図そのものじゃないか。

だから「遊びさ」と笑う何者かを、受け入れる以外の選択肢は無いのだ。悲しい。

<mother,father,sister and brother.>とコーラスが入るが、ぶつぶつと音が途切れているのが違和感を演出する。

更に、<father?>と問うようなアクセントに変わっている。

これにもドキッとする。

微妙な所だが、<mother?><father?>と両親に問うように聴こえる。fatherは確実だと思う。

だとしたら、"優秀だ"と言われ続けた子供が問うているのか。

子供は、両親があなたのためにおこなった様々な事に対し、疑問を持ったのだろうか。

両親があなたのためにおこなって"しまった"事に気づかない方が、子供は幸せでいられると思う。

<遊びさ>と歌う声も途切れてゆき、やがて次曲『起爆』の轟音に繋がる。

導火線に火が点くかのように。

 

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霧の向こうから聴こえて来るような、くぐもった音の心地よさがある。

抑えに抑えられ、でも正確にリズムを生み出すドラムが良い。

音だけ聴けば、神々しさも感じる。

そこにぶち込まれる『起爆』前の轟音サウンドが、全部めちゃめちゃにする感じで、それもまた良い。

元々好きな曲だが、改めて耳を澄ませると、音源はたくさんの加工がされている事が分かって面白かった。

加工の意味を深読みするのも面白かった。

(あえて説明の少ないコンテンツに関して、深読みと解釈を勝手に披露するのはインターネットおよびオタクの大好きな遊びなので仕方がない。今一番好きなオモチャはフェイクドキュメンタリーQです。ただ怖すぎて自己解釈どころではなかったので他人の解釈を漁っています。)

 

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曲自体が好きなので、イラストのイメージは大分前から決まっていました。

ただ、実際に描こうとすると・・・ピザが・・・難しすぎる・・・笑

チーズは美味いが描くのはダルい。

『皿』は不穏な曲だと思っているので、イラストも思い切り不穏にして良いだろうという謎の安心感がありました。

ハッピーな曲だと解釈していた方がいたらすみませんでした。