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気球

 

全21曲、トータル70分、1トラック。

曲調はポップな物も多いのに、魅せ方についてはポップさをかなぐり捨てた『Wether Report』。

「聴く人を選ぶ」と言ってしまえば簡単だが、それでは少し語弊を感じる。

「普通とは違う事をやってる音楽を選んだ人に聴いて欲しい」という芸術家魂の現れと言うのが相応しい。

そう、これは音楽という名の芸術品。

今回の旅は、孤高で気高い70分。

 

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穏やかなギターで『Wether Report』は開幕する。

優しく語り掛けるような歌声は、『Rabit Hall』で感じたような、おとぎ話の語り部のようだ。

 

<ここはおじいちゃんとおばあちゃんの国>

<それはただのながい幼年期みたい>

<トンネル抜ければそこはまた大きなトンネルのなか>

矛盾する言葉が紐づけられて歌詞になって、その矛盾が意味の深読みの余白を与えてくれる。

『気球』もまた、思考する喜びを与えてくれる。

年老いた人々の国を長い幼年期と言い表すのは、なんというか、達観しすぎてちょっと面白い。

でも、年老いた人々を"終わり"と言わない優しさや希望がある。

不思議な目線。

 

<迷走するボロい機械>

<それでも歯車はチクタク回転している>

<金属の粉振りまいて>

<チクタク回転している>

初めて聴いた時から、"ボロい機械"はタイムマシンだと想像していた。

『気球』の世界観で"タイムマシン"は"ボロい機械"なんだ、と思ったら笑ってしまった。

タイムマシンと言ったら未来の乗り物で、ぴかぴかしていると思う。

でもそれは思い込みに過ぎず、タイムマシンが当たり前の未来では使いすぎてボロボロになっていて、当たり前かもなぁ。と想像したりして。

矛盾が生み出す意味の余白に、更にストーリーの余白も提示される。

 

<眼を閉じ耳を塞ぐ>

<ぼくらは孤独なアインシュタイン

<震える夜の闇に>

<これは、はじまりかも>

<ただただ気配がしている>

書く前はそんな風に思わなかったが、『Ave Materia』の歌詞の多くは内側に向いていた。(最後に「自閉探索の旅だった」と結論づけた。)

(音楽的に)好きな曲が多いからそんな風に思わなかったが、歌詞としてはそんな感じだった。

『時計回りの人々』は特に、内側が出発点だったと感じる。

『気球』は割と、外側に向いている。

希望と言ったら抽象的だしチープだけど、そんな言葉が似合う開かれたものを感じる。

 

<空想する春のマシン>

2014年の全国ツアーのタイトルにもなった。

なかなか素敵な言葉で好きだ。

"マシン"という無機質なものに"空想する"という人間らしさを与えているから、ストーリーも空想できそう。

 

<これははじまりだよ!>

<ここは歴史のまんなかさ>

<チクタク回転している>

『気球』がPoepleで一番好き!という訳ではないのだが、日常生活でふと思い出す歌詞はナンバーワンで<ここは歴史のまんなかさ>。

良い歌詞だ~。

教科書に載るような出来事じゃなくたって、我々の"今"は歴史となって未来へ積み重なっていくから。

「今の出来事は素敵だな」と心に風が吹いた時、<ここは歴史のまんなかさ>と頭の中で流れる時がある。

それを誰かが覚えて伝えてゆけば教科書に載ったり記録に残ったりして、目に見える歴史になるのかもしれない。

もしくは音楽や文章や絵に遺せば。

遺した物は、未来に継がれていくかは分からない。

なるかもしれないし、ならないかもしれない。

不確定でも、まあ遺れば良いかなと思う。

もしくは自分が遺せばいいかなと思う。

そういう時、<ここは歴史のまんなかさ>という表現が丁度良くはまる。

自分の感情に丁度良く嵌る言葉を知っている事は、幸せだと思う。

素敵な言葉を教えてくれて、ありがとうの気持ち。

 

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全体的にミドルテンポで進んで行くが、音には迫力がある。

トリッキーな事はしていない(と思う)けど、安定感のある演奏に「やっぱりこの人たち凄いんだな」と改めて思う。

構成は基本的にリフレイン(繰り返し)になってると思う(聴こえる)が、曲が進むたびにアレンジが加わっていって、最終的に「いやほんとに3人でやってる?」ってなるのがビビリポイント。

ベースになるフレーズがあると仮定して、そこに色んなパターンのアレンジ(しかも手数が増えていく)が加わってゆくのが、ジャズ要素を感じて好み。

 

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『旧市街』『ニムロッド』と同じく、加藤隆さんがPVを製作。

まだPeopleにドハマリしてない頃に見た時は割と意味が分からなくて、流し見してしまった。

ハマってから見たら、メンバーっぽい登場人物(キャラクター?)がさりげなく描かれているのに気づいて興奮した。

「分かる人に分かればいい」みたいなスタンスで描かれる小ネタ、大好きです。

(2:28 波多野さんっぽい動物)

(2:33 割と分かりやすくダイゴマンと福井の健太さん)

(3:58 演奏している3人 顔は見えずカラフルでハッピー)

(4:41 演奏している3人再び 動物のような顔がハッキリと)

 

コーヒーを置く→カップを除くと海に場面転換→海上に浮かぶ船の中の様子→船室にコーヒーを飲む人→コーヒーを置く

という一連が繰り返されるが、表現方法を変えて5周するPVとなっている。

このPVを味わえるようになったのは、バンドを知ってから3年後ぐらいだったと思う。

①モノクロの線画 書き込みは少なく、スケッチのようにサラッとしている

②色がつく 船内の様子や、船内の人が描かれ始める

③モノクロに戻る 登場人物たちが、人と動物が混ざったようなやや異形の姿になる。

④ベタ塗りの色がつく 表情や書き込みが色で潰され無くなる。塗分けだけでこの一連を表現する。(ここのパートが一番技術力要ると思う。マジで凄い。)

~間奏は①のコーヒーを飲む動作がループする映像~

⑤ベタ塗りの色 ④と違うのは、残像をカラフルに塗り分けており、画面が華やかになる点。曲の盛り上がりも最高潮となり、⑤のパートは全体的にハッピーな雰囲気が漂う。演奏する3人が出て来るのも、このパート。

⑥カラフルは保持したまま、線画が加わる 表情や書き込みが復活するが、①②と違い登場人物は動物の姿や異形の姿になる。最初のコーヒーを飲む男性は雄牛の姿になっていたり(西洋の悪魔の姿にも似ていると思った)、甲板の船員は豚になっている。アート性が最も高くなり、不穏さも感じるが、廊下に1人で立っていた女性が、⑥だけは恋人と抱擁する。不穏さに混じって直接的なハッピーエンドが差し込まれる世界観、かなり好き。

一番最初のコーヒーの線画に戻って、終了。

 

自分は③が好きです。

やや異形の姿というのが、マンガっぽいシルエットで好みです。

コーヒーを飲む男性はツノが生えたシルエットで黒塗りだが目だけ描かれている。

ダイゴマンと福井さんにはツノや動物の耳が生えている。

でもあくまでシルエットなので、"キャラクター"まで行っちゃわないところにアート性を感じます。カッコイイ。

 

『気球』のPVは、これ一個独立したアートなんだと思う。

People In The Boxという芸術家と、加藤隆という芸術家の合作のような感触。

(書いてて思いついたんですが加藤さんのPVの一場面をTシャツにする企画はどうですか?CDジャケと同じくファンが好きな場面を1秒単位で選び、好きな色のTシャツと組み合わせるっていう。自分は2:16の船員さんが潜水ヘルメットの異形頭になった場面を黒Tで合わせたいですね。ニムロッドも旧市街も良いですね。)

怒られるわ。

 

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