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土曜日/待合室

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雨音の垂れる音のようにぽろぽろ鳴るギター

金属の屋根にしたたるしずくのような冷たい、それでいて優しいシンバルの音

息を吸って、吐く 深い呼吸のように通奏するベース

「朝、蒸気のような雨が吹きつけて 通りは輝きだした

目の褪せたサイコロを振って 思い出の街を行く」

 静かな土曜日の始まりだ。

 

歌詞の解釈は後半に回して、とにかくこの曲は美しい。

描かれる情景、3つの音の重なり。

言葉で言い表せるとは思ってないが、頑張って書いてみようと思う。

Aメロはスモーキーな音がする。

蒸気の向こうからぼやけた音が徐々に姿を現す感じ。

遠くから聴こえてくるメロディは優しく、それでいて切なさを持っていて、だけど感情的ではない、冷静な音。刺すほど冷たい雨のような。

『金曜日/集中治療室』の曲終わりのテンションが徐々に下がっていき、『土曜日/待合室』に繋がっていく部分も見事。

1曲1曲は独立していても、あくまで"繋がり"を感じるトラックの繋げ方に、"あ、やっぱり1週間のできごとなんだ"と思い出す。

 

朝日が灰褐色の町を金色に塗り替えていくように、静かな前奏からメロディーラインへ移り変わっていく。

スモーキーな演奏に乗るクリアな歌声が、不思議な聴き味を残す。

他の曲のテンションに比べるとローテンポ。

『木曜日/寝室』もまったりとしていたが、なんというか、『木曜日』より喪失感を感じる。

歌詞のせいとは言い切れないと思う。

言葉が無くても、なにか悲しい音楽。

 

だけど歌詞の話しますね。----------------

 

「寝て起きると そこにきみがいたらいいな」

"きみ"は居なくなってしまった。

集中治療室から帰って来なかった。

 

「もう、やめようよ って袖を引いてくれてありがとう でも

あと一錠だけ でも

あと一錠だけ」

これはまだ彼の中に残るオピウムによる幻聴なのか、それとも実際あった事なのか。

だけど彼は聞かない。

苦しみから逃れたくてまた、オピウムに手を伸ばしている。

(ここ、むしょうに辛くなります。「あと一錠だけ」と手を伸ばす様が情けない。でも、別に薬やった事ないけど、気持ちは分かる。救われないと分かっているのに求めてしまう気持ち。)

 

「そびえ立つ陽炎 顔の無い人々

きみのパパが建てた高いビル

すべての窓がふたりをのぞき込んで

いっせーのせっ で歌い始めた」

"高いビル"は色々な解釈があったけど、自分は"火葬場の煙突"がしっくり来ました。

パパ(喪主)が建てたビル(煙突)から出る煙の熱で陽炎ができる。

顔の無い人々(葬列者)は、戻れなくなった主人公と"きみ"を糾弾するかのように、窓をのぞき込む。

オピウムが見せる幻覚だろうか。

主人公の恐れを感じる。

(言葉で読むと不気味な光景なんだけど、演奏の美しさと歌声の純粋さに紛れて、これまた不思議な感覚になります。こんなん、画にしたらホラーですからね。だけどそうはならないのが、この曲の凄い所だと思います。"いっせーのせっ"という歌詞の可愛さ(子供っぽさ)も不気味さを緩和してしまっている。)

 

「きみはカメラを逆さに構え自分に向けた

何が見える?

誰かと目が合って離れない」

これは遺影の事だ、という解釈を昔見ました。

自分もそう思います。

"誰かと目が合う"のは、遺影の前に並ぶ葬列者。

(ここも上と同じで、画にするとホラーなのに綺麗に聴こえる不思議部分。)

 

「口を開けて きみの宇宙を見せて ほらね

言葉のない秘密は とてもやかましい」

主人公は、"きみ"の喉の奥に広がる闇を見たのかしら。

それを宇宙と呼ぶ感性はとても素敵だと思う。

"言葉のない秘密"とは、"亡くなっているという事実"かなと思います。

死を主張されて、やかましいと思っている。

主人公は、"きみ"の死を認めたくないのかな。

(祖父の遺体と対面した時、喉の奥が闇みたいだなぁと思ったのを思い出しました。

生きてる人間でも体内が暗いのは当たり前なんですけど。

それでも、遺体の体内に広がる闇は生きてる人のとは違う気がしました。)

 

「世界中に電話 鳴る

ぼくは、きみは、出ない」

"ぼく"の深い悲しみを感じる。

誰かが"ぼく"を呼んだって、返事もろくにしたくないんだろう。

放っておいて欲しいんでしょう。

("世界中"というのはリアルに考えたら大袈裟な気もするけど、比喩としては本当に美しい。放っておいてほしいのを、"世界中の電話が鳴っても出たくない"と言うのはなんとも詩人というか。良い表現だなぁと思います。)

 

「音もなく 雨が降る

ぼくはいない

きみはいない」

電話に出ないということは、誰かに自分の存在を明かさないこと。

世界中の電話に出なければ(呼ぶ声に反応しなければ)、それは自分が存在しない事と同義かもしれない。

だけど、「きみがいない」のは事実。

"ぼく"がいないのは概念の話として、おそらく、"きみ"は事実、この世界にいない。

その対比が、やっぱりどうしようもなく悲しい。

 

曲はふたたび、雨垂れのようなギターとドラムの粒のような音で締めくくられる。

弦を弾く音も水流に聴こえる。

朝より雨は少し強くなっている。 

雨は音もなく降っても、溜まった水滴が地面や屋根に落ちれば、音は鳴る。

それは雨の存在証明だ。

1日中降り続いた雨も、明日には止むかしら。

明日。

日曜日には。