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金曜日/集中治療室

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木曜日とは打って変わり、華やかに始まる金曜日。

全てが解決したかのような、開放的な音とは対照的に、歌詞の世界では良くない事が起こっている。

「Aは花を散らして Bは踊る

CとDはどうやって夢を見る?オピウム?」

オピウムは、英語でアヘンもしくは麻薬のこと。

CとD(主人公と彼女)は一緒に薬物を服用して、夢を見ていた。

 

「Aが服を脱いだら Bは舌を噛む

CとD 白衣着て 患者を待っている」

花を散らすとか、服を脱ぐとか。

水曜日に引き続き、アダルトな雰囲気を感じてしまう。

だけどBはそれを忌んでいるというか、拒絶しているような気がする。

という事は、Aが彼女で、Bが主人公か。

同時に、CとDもこの2人なのだろう。

 

「運び込まれたモナリザはベッドで泡を吹いている」

モナリザは彼女の事だろう。

もう彼の見ている世界はめちゃくちゃだ。

すでに主人公は、現実を捉える事が出来なくなっている。

 

『死にたくなってしまったら そっと告げていいよ

少しだけなら葬ってあげる』

疲れて、少し病んでる時。

この歌詞が沁みる。

ほんとに死にたいわけじゃないんだ。

だから少しだけ葬ってくれるなら、それが丁度いい。

"葬る"という言葉は優しいと思う。

葬ってくれる他人が居ないと成り立たない言葉だから。

孤独にひとり死んでいかないと保証されるから。

主人公も同じように感じただろうか。

でもおそらく、彼女はもう居ない。

死にたくなっても、少しだけ葬ってくれるひとはもう居ない。

 

オピウムを与えたのは彼女だったんだろう。

病気をすでに抱えていた彼女が、苦しみから逃れるために得た夢。

(おそらく)病気ではないが生きる苦しみを抱えていた主人公。

彼女は彼を救いたくて、オピウムを分け与えた。

ふたりは夢を共有した。

 

彼女が病院に運び込まれた事を知った主人公は、耐え難いこの苦しみから逃れるために、まずはそれに手を出した。

ご機嫌な演奏で始まる冒頭は、ハイになったまま病院へやってきた主人公の脳内に思える。

 

楽しい事が起こると予感させるような、期待に満ちた音律。

おもちゃ箱の中を探っているようだ。

「めちゃくちゃにして、やろうよ」

「めちゃくちゃにして、あげるよ」

囁かれるのは音に似合わぬ異質な言葉。

それは熱に浮かされながら見る悪夢みたいに、現実感の伴わない悪意。

囁いているのは、彼女か、主人公か。

彼女がかつてそう言ったのか、彼女にかつて言ったのか。

 

このままめちゃくちゃになってしまうのかと思えば、突然曲調が変わる。

ある種、衝撃的に。

ここまで極彩色の悪夢を見ていた主人公が、モノクロの現実に目覚める。

「報いの雨に濡れて」主人公は、やっぱり後悔しているんだろう。

「ダメになった絵の中の国」で楽しくやってた2人は、所詮絵の中のまぼろしだった。

雨が降っていた。

雨は現実だった。

絵の具を溶かして、ふたりを溶かして、楽しかった思い出を溶かして、消える。

彼女は集中治療室に居る。

彼のオピウムが切れる頃、つまり金曜日の翌朝。

土曜日、彼は待合室に居る。

 

 

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歌詞の方をバーッと書いてしまいましたが、展開がバラエティに富んでいて、聴いていて本当に楽しい曲です。

音楽単体で聴いたら、絶対にこの歌詞を想像できない笑

『木曜日/寝室』からの繋ぎもすんごい良くて、あの終わりからのこの始まり。

めちゃくちゃアガる。

歌詞に合わせたのか、先にメロディがあったのかは分かりませんが、「翌朝~」で急激に曲調が変わる所も本当に凄いと思います。

この音の流れで、こうする!?っていう。

 

あと上に書くと邪魔になっちゃうので別で言いたかったんですが、「めちゃくちゃにして、やろうよ」からの「めちゃくちゃにして、あげるよ」が好きすぎる。

こんな可愛い音なのに言ってる事がヤバすぎる。

「めちゃくちゃにしてやろうよ」ってとんでもない事を言ってるのに、無邪気な歌声に依るのか、一緒に手を染めたくなる。

からの、その相手から「めちゃくちゃにしてあげるよ」と矛先が急にこちらに向く。

このサイコ感がたまらないですね。

”それ”に手を染める事で、めちゃくちゃになるのはこちらなんですよね。

自分の解釈では、"それ"というのは薬物のことで、主人公を蝕んでいくというイメージです。

だけど完全に呑まれる前に、ギリギリで戻って来られたのが金曜日。

彼も彼女の側に行きたかったんだけど、行けなかったんでしょうね。(『月曜日/無菌室』で「ぼくも行きたいよ 次の世界へ そこへ」と願っていた。)

そして、彼女を戻す事が出来なかった(=病気の完治・健康体)事を後悔する(『水曜日/密室』「僕らは楽し過ぎたから戻れなくなった」)のと同時に、彼女と同じ世界に行けなかった事も後悔している。

後悔してばかりの主人公ですね。

彼の苦しみはまだ続きます。

現実は、辛いね。