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失業クイーン

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アルバムで唯一、“Queen”という言葉が使われている曲。
どんな曲かと聞かれたら、これは”優しい曲“だと答えたい。
 
クイーンなのに、彼女は失業してしまった。
兵隊を率いる女王が失業してしまったら、何になるんだろう。
 
「あんなに世界を呪っても 虚しいだけだった」
「聴いて 憎しみの芽が奏でる音を」
どうやら彼女は不当解雇のようだ。
引きずり降ろされたクイーン、世は王政から民政へ。
 
「棺の並んだ廊下にきみはいた
近くて遠いところに立っていた」
「見て ただまっすぐに彼女の眼を」
彼女は激昂も拒絶もせず、静かに運命を受け入れている。
蟻の兵隊たち、おそらくかつて臣下だった者たちが跪いた彼女を取り囲む。
 
彼女を「見て」いる者がいる。
彼女と一緒に水中で、出来るだけ長く息を止めていた者だろうか。
臣下だったろうか、家族だったろうか、助言を与える誰かだったろうか。
どんな立場にあったとしても、おそらく傍観する事しかできなかったんだ。
傍観しかできなかったから彼女は失業してしまったんだ。
こういう風に言うと、無責任な者の仕業に聞こえる。
だけど、傍観者は見捨てる事はしない。
失業してクイーンでなくなっても、彼女のことを見つめ続けているから。
ただの失業者になった彼女に寄り添って、「もう手を汚さなくていいよ」と慰める。
 
考えてみれば、仕事とは手を汚す事の連続かもしれない。
自分の利益のためには他人の利益を奪わなくてはならない。
利益の奪い合いこそ経済だ。
優しい彼女は汚したくない手を無理矢理、汚してきたんだ。
 
「もういいよ」と寄り添い言葉をかけてくれる傍観者も、とても優しい人なんだと思う。
どうか、社会から見捨てられた気持ちになっている人に、この曲が寄り添いますように。